私の読書日記 2008年2月
26.27.甘い薬害(上下) ジョン・グリシャム アカデミー出版
謎のフィクサーの誘いに乗り民事の法廷経験もないのに欠陥薬品の集団訴訟で大儲けし、あっという間に金満弁護士となり、欠陥薬品の集団訴訟に邁進した若手弁護士の欲望と良心の痛み、栄光と末路を描いた小説。短期間の金儲けをもくろんで裁判外の和解で処理するため、法廷シーンはほとんどなく、リーガルサスペンスというよりは弁護士業界ものと位置づけられそう。序盤に少し法廷シーンが出てきて、久しぶりの法廷ものかと期待しましたが、そこは肩すかし。まあ、舞台設定がグリシャムの地元のミシシッピ州ではなくてワシントンですから(アメリカは州毎に法律が違うから)法廷シーンを書き込むのは無理がありますしね。作品の雰囲気としては� ��「路上の弁護士」と「原告側弁護人(レインメーカー)」を組み合わせた感じでしょうか。集団訴訟弁護士を金儲けの亡者のように描き、他方頑固一徹の有能な被害者側弁護士を性格悪く描いた上で負けさせたりするのは、司法と弁護士業界に失望しているのでしょうか。それともグリシャムが大企業寄りのメンタリティを持つようになったのでしょうか。「自然な日本語をめざして」いると書かれている「超訳」ですが、どうも私には日本語としても引っかかりが多くて内容と字数のわりには時間がかかった感じです。長らくグリシャム作品の翻訳が止まっていてここに来て立て続けに出版された(大統領特赦・最後の陪審員:新潮文庫、甘い薬害:アカデミー出版、無実:ゴマブックス)経緯は知りませんが、様々な社から続けて出� �のはグリシャムファンにはうれしいやら混乱するやら・・・
25.少女たちの性はなぜ空虚になったか 高崎真規子 NHK出版生活人新書
女性の性意識の変化をテーマにしつつ、どちらかといえばそれよりも1970年代以降のメディア、サブカルチャーの傾向を軽くレビューした本。タイトルの疑問については、処女神話自体が日本では近年のもので底が浅い、80年代以降メディアでの性のタブーが減少した(MOREレポート、ananのsexシリーズ等)、バブル崩壊後女の商品価値が下がりセックスの価値も引きづられて下がった、出会い系ツールで垣根が下がったというようなあたりのことなんでしょうけど、回答としてははっきりしません。メディアの流れは書かれているけど、論としてはあんまりスッキリしない感じ。著者が私とほぼ同い年なもので、著者のメディア� ��験は同時代史的にはよくわかるのですが。
24.東京タワー オカンとボク、時々、オトン リリー・フランキー 扶桑社
九州の斜陽の街で母親の女手一つで貧しくとも特に不自由することなく育てられながら東京で自堕落な生活を重ねギャンブルや酒に溺れて知人や母親に金を無心する放蕩息子が、癌を患った母親を東京に呼び寄せ看取るまでの小説。苦労しているはずなのに明るい母親と負い目を感じるボク、節目節目に現れるずっと別居の父親の関係と思いを描いた作品です。時折はさまれるコミカルな文章とほろりとさせるエピソードが巧い。ベストセラーとなったのもうなずけます。私の年齢の問題もあり、前半は親の目で読んでこのバカ息子がと思い、主人公の年が自分に近づいてくると主人公の目で読んでしまうのが、少し情けなかったのですが。節目節目� ��「五月にある人は言った」というフレーズと言葉の引用が置かれ、何度も繰り返されるので、ここまでやればラストかその近辺にそのある人が絡んだ仕組みが用意されているだろうと思って読み進めたのですが、それがないので、特に悪いラストとは思わないのですが、不満足感が残りました。
23.死ぬ前に読め!新宿歌舞伎町で10000人を救った生きるための知恵 玄秀盛 ぶんか社
歌舞伎町救護センターを開いている著者の5年間の相談経験からの人生論。タイトルもすごいですが、著者の自負もすごい。前書きから「私と直接出会った人間には必ず救いが訪れる。それは、この5年間の相談者10000人が一人も欠けずに救われたことが証明している。」(4頁)ですもんね。こういう発言って宗教団体くらいしかできないですね・・・って著者は僧侶か。なるほど。それはさておき、書かれていることは面白いし含蓄があります。DV夫は、自分自身が弱いからさらに弱い立場の人間に向かう(30頁)、DVを防ぐには最初の暴力を絶対に容認しないことが大切だ(36頁)、喧嘩に強いのは相手に徹底� ��た恐怖を植え付けることができる奴(44頁)、喧嘩を売られそうになったらぶつぶつ独り言をいうかへらへらわけもなく笑えばいい(48頁)、どんなに周りが大騒ぎしても本人に立ち直る意思がない場合は立ち直ることなんかできるわけがない(116頁)とか。どうしても死にたいのなら誰にも迷惑をかけずに死ね、体にダイナマイトを付けてヤクザの事務所で自爆でもすればいい、世の中に迷惑を掛けているヤツを道連れにして死ね(80〜81頁)って・・・さすがに弁護士にはできないアドヴァイスです。